名古屋懇談会12月例会報告

テーマ:自由貿易と日本の農業
開催日および場所:2007年12月15日;中京大学。
話題提供者;八代勝美、河宮信郎、青木秀和 各氏

最初に八代さんから「日本に農業はいらないのか」谷口信和;「農学・21世紀への挑戦;「食料・農業・農村白書(農水省H16年度);「鎖国の経済学」大崎正治;「先進国の自由貿易と途上国の自由貿易」槌田敦、名城論叢などを引用して問題点を提示するとともに八代さんの自宅の集落の専業農家の事例を挙げながら農家の現状、後継者の状況などを具体的に説明があった。集落17戸の内専業としてかろうじて成り立っているのは2戸であり、田を1.5-2ha,畑1haをいずれも70歳以上の夫婦で耕作している。。田は農協委託などもできるが、畑1haを夫婦で耕作するのは農機具を使っても忙しい。理想は夫婦二人の労働で生活の保障ができることだが難しい。さらに70歳以上の人は後10年つづけるのは難しいし、生活の保障がないと後継者はできない。その他、自給率の低下、米食の減少による米あまり問題など。
この対策としては槌田さんの主張する関税の引き上げが必要。農業は土との対話だから
いま、関税を上げても後継者はすぐには育たない。経団連は関税撤廃一本やりである。
など指摘があった。

つぎに河宮さんから関税の問題、すなわち自由貿易はいまや世界的イデオロギーであり、これをいますぐ路線転換するのは難しい。自由貿易はリカードの理論に根拠をおいている。リカードの「比較優位部門に特化すると貿易国相互に利益をうるという命題がある。IMF,世銀はリカードの強烈な信奉者であり、スタッフもたたき上げの人が登用される。日本では農業は比較優位でなく、自動車、電機が比較優位(ただし、中国の追い上げでいまや絶対優位ではなくなりつつある)。リカードはイギリスとポルトガルの例をあげて論証したが、リカード理論を認めても利益をうるのは(その国民でなく)トレーダーであり、当時はトレーダーはほとんどイギリス人だったから利益はイギリスにいった。リカード理論は現実に1920年にMethemen条約として両国で協定された結果、ポルトガルは工業部門を英にわたして完全な農業国になった。
これを批判して、ドイツの国民経済学をとなえたのがリストでイギリス以外でこれをやることが如何にばかげているかを暴露し、プロシャ主体の関税同盟を作った。もうひとつの問題はリカード理論には「資本移動が国内に限られている」という暗黙の了解があった。生産力も労働力も移動できれば絶対優位の国に全部行ってしまう。資本の自由化が行われた現在リカードの大前提は崩れている。
槌田さんはリカード理論を認めたうえで関税障壁を高くするという考えである。
現在は金融資本がIMF,世銀、WTOを支配しているが、サブプライムローンの問題などでその力が少し揺らいでいる。この体制が簡単に崩れるとは思われないが変わっていく可能性はある。

また、青木さんからはこれを補足して、以下の説明あり。
中国と日本の場合でいえば、人と資本を全部中国に移動して、賃金を中国並みにすれば全部中国でできる(中国は人はたくさんいるから実際には日本から持っていかなくても日本人を全部失業させればいい)。WTOのやり方でやれば一番安いものができる。しかし、その安いものをいったい誰が買うのかという問題が抜けている。国際競争をすればするほど全部がワーキングプアになってしまう。トレーダー、すなわち金融部門は高い生産性を維持できる。
当時のイギリスは旧い資本家(地主)と新しい資本家(リカードのような)の争いであったので、穀物を安く買えれば賃金を下げられるので穀物法を廃止し関税を撤廃した。1946年に農業法を制定してそれからイギリス農業は盛り返した。当時は金本位制でリカードはその強烈な信奉者だった。
いまの農業政策は1)欧州のように農業に多面的価値を認めて其れを守る;2)オーストラリア、アルゼンチンなどは大量に作って世界中が安くかえれば幸せになる;3)途上国は売るものがないから買うばかり、どうしてくれるかという三極が対立してまとまらない、
など。

12月例会:自由貿易と日本の農業