5月東京セミナー:海はだれのものか(熊本一規さん)5月22日開催
5月東京セミナー
報告者:熊本一規さん(明治学院大学国際関係学部教授)
日時 :5月22日(土)午後2時~5時
場所 :国学院大学大学院509教室(常磐松タワー5階)
連絡先:菅井益郎(03-5466-0331)
古沢広祐(03-5466-0330)
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海はだれのものか
20100619 熊本一規
「漁業権」とは「漁業を営む権利」である。それは財産権であり、かつ物権的権利である。そのため、埋立・ダム・原発事業を実施するには、漁業権者の同意を得、また漁業権者に補償しなければならない。
しかし、実際の埋立・ダム・原発事業では、漁業権者の同意取得の手続きが適切にとられずに、漁民との間で軋轢が生じ、紛争に至ることが少なくない。
本報告では、漁業権(慣習上の漁業権を含む)の内容・性質や埋立・ダム事業等における同意取得手続きがいかになされるべきかを説明する。
第一に、共同漁業権(採貝・採草などの漁業を営む権利)が漁村部落の漁民集団の有する入会権的権利であることを説明する。
共同漁業は漁協に免許されるものの漁村部落の漁民がそれを営む。したがって、その権利者は免許を受ける漁協ではなく、漁業を営む漁民である。最高裁平成元年判決のように権利者を漁協とする見解は、いくつもの漁業法の条文を説明できない。とりわけ平成13年漁業法改正で共同漁業権の変更等に部落漁民集団の同意が必要とされたことにより、権利者を漁協とする見解の誤りは明確になった。
第二に、人々の営みが権利を創ることを説明する。
海・川や海浜は「公共用物」とされ、散歩や海水浴のような「一般公衆の共同使用」(自由使用)に供されることを大原則とする。が、それに加えて、特許または慣習に基づく「特別使用の権利」が存在することがある。「慣習に基づく権利」は、多年の「実態の積み重ね」により、特定人、特定の住民又は団体など、ある限られた範囲の人々の間に、特別な利益として成立し、かつ、その利用が長期にわたって継続して、平穏かつ公然と行なわれ、一般に正当な使用として社会的に承認されるに至ったときに成立する。
第三に、公有水面埋立法に基づく埋立免許や埋立権について説明する。
埋立事業者は、埋立免許を得ても埋立予定海域に存在する権利を無視して工事を行うことはできず、それらに対して補償しない限り着工できない。埋立予定海域に存在する権利には、漁業権のように「特許に基づく権利」だけでなく、地域社会における「慣習に基づく権利」も含まれる。
要するに、海は、みんなのものであるととともに地域社会のものである。海は「国のもの」とする誤解も一部に見受けられるが、国は、公共用物を公共用物であり続けるように管理する義務を負っているのであって、国が海の使用を決めたり、勝手に処分したりすることはできないのである。