「低炭素社会」を問う! (2010年シンポジウムの統一テーマ)
統一テーマ「低炭素社会」を問う!
提案趣旨
文案:和田喜彦、室田武
エントロピー学会は、制御核融合の研究開発に伴う地下資源浪費と放射能汚染の可能性を指摘した物理学者・槌田敦の研究、地域主義研究集談会を立ち上げて地域格差の小さい、そして生態系の営みに根ざす社会を目指そうとした経済学者・玉野井芳郎の研究などをきっかけとして1983年に創設された。地域を重視することにより、本学会には職業的な研究者だけでなく、自治体職員、市民運動や住民運動に関わる人々など多彩な会員が結集し、学際的な議論と研究を進めてきた。
それから30年近くを経た今、温室効果ガス排出削減が必要であるという世界政治の動きと連動する形で、日本においては「低炭素社会」が諸方面から提唱されている。その典型例として、2008年7月の「低炭素社会づくり行動計画」という閣議決定がある。その骨子は、運転時には二酸化炭素を排出しないとされる原子力発電をエネルギー源の中核として推進するというものである。補完的にバイオマスなどの再生可能エネルギーの利用も進めるとしたこの行動計画は、高速増殖炉と核融合の開発も続行するとしている。
しかし、日本に限らず原発は、人工放射性物質を各地に累積させ、安心して暮らせる地域社会の基盤を、時にあからさまに、時に潜在的に掘り崩している。つまり、日本その他の国々で消費される核燃料の原料であるウラン鉱石の採取のため、世界のいくつかの地域で放射能汚染やヒバクシャ(被爆者)を増大させてきたのである。
エコロジカル・フットプリントに依れば、人類の資源消費が地球の環境収容力を既に超過している中で、二酸化炭素のみに焦点をあてた「カーボン・フットプリント」により、問題の本質から人々の関心をずらそうとするのも低炭素社会推進の問題点の一つであるように思われる。このような時代に当たって、京都における2010年大会が、学会創立時の理念にもう一度立ち返りながら、会員がいっそうの研鑽を積む場となれば幸いである。
設立趣意書は、「この学会における自由な議論を通じて、力学的または機械論的思考に片寄りがちな既成の学問に対し、生命系を重視する熱学的思考の新風を吹きこむことに貢献できれば幸いである」と述べている。原発を中核とする「低炭素社会」が生命系重視の熱学的思考と両立しうるか、しえないのか、本大会では、会員外の一般参加も歓迎しつつ、その点を自由に議論し、格差社会を克服する方向をも、非会員の参加者のみなさんと共に検討する場にしたいと考える。