原発震災関連情報 2011 年 7 月 24 日更新
原発震災関連情報 2011 年 7 月 24 日更新。
1.はじめに:原発震災の現況と望ましい政策の方向性
1-1.7 月の更新にあたり
当情報の更新に一ヶ月以上の間が空きまして恐縮です。6 月 11 日に全国的に盛り上がった原発推進政策に対する抗議行動や、脱原発およびエネルギー政策転換の政策的動き(自然エネルギー買取など)ですが、我々日本人が直面する「人災」とそれに対する対策・防御という問題の焦点があいまい化させられるという方向性も顕著になっています。また、原発震災に便乗する個人・組織の動きも活発で、見極めが必要のため、情報の更新が遅れ
てしまいました。原発震災の影響である放射能汚染と、その社会経済的な影響への対策は正念場にあり、長期化する厳しい現実を看過することも、絶望することも選択すべきではありません。引き続き、関連する情報と今後の展望についてお伝えしてゆきます。
1-2.原発震災の社会的な展開
東日本大震災をきっかけとする東電福島原発事故により、既に広範囲に放射性物質の降下が観測され、東北・北関東を中心とした土壌・農・漁業産品の汚染に加え、下水や一般廃棄物処分場での放射性物質検出も拡大しています。また外国における放射性物質の観測など、その影響の範囲は世界規模となっています。地球に住む人々を全て被曝者、被災者としつつあるのが、東京電力福島原発事故の人災です。
我々は今後、最低数十年以上にわたり放射性物質による汚染にさらされます。日々の生活、結婚・出産、仕事・勉学等は重大な影響を受けています。従って、必要な対策、戦略について考え、行動しなければなりません。
問題がある社会の中でも弱肉強食の競争に勝ち残りさえすれば成功、とする考えが一般化していた日本ですが、結局は社会的存在である我々は、社会の安全を保つことなくしては、自分の安全も得られません。この情報を読まれる方々には、長年、原子力の問題に取り組まれてきた方、事故後、問題の深刻さを知った方の双方おられると思います。単に自分が助かるための対策から、社会全体の生き残り、将来を考えていきたいと思います。
1-3.人災に自浄作用なし。繰り返される「公害湮滅」の構造。ではどうするか?
地震・津波は天災ですが、福島の「原発震災」は「人災」です。この人災には、原発利権関係者の関与を共通点としつつ、複数の側面があります。
(I) 度重なる指摘、告発を無視して、地震集中地域である日本に、日常から放射性物質の漏洩と被曝労働を伴い、また地震によって壊れる原発を推進・設置し、核廃棄物保管の見通しもなく政策を実施していた、政治家・原子力行政・電力会社・原子力学者・マスメディア等による利権分配により、エネルギー供給手段としての根本的欠陥を覆い隠していた、「原発推進政策」。
(II) 従来から地震あるいは欠陥の多重発生、電源・冷却材喪失のシビアアクシデントへの技術的対策を怠り、またその結果として適切な制御を誤り、数回にわたる爆発による放射性物質の拡散、汚染された冷却水の海洋投棄をし、不十分な拡散防止措置も加えて放射性物質を広範囲に撒き散らしている、「事故対応」。
(III) 爆発と漏洩による放射性物質の放出による大気汚染、水汚染について、計測値、予測を隠蔽し、予防的な避難を行わず、また過小なリスク評価をマスメディアを通じて流布し、生活環境、食品や水を通じた「被曝拡大」。これは過去の「公害湮滅」の繰り返し。
以上の少なくとも 3 側面があります。全ての人災が、現在も進行中であり、自己批判や相互チェックを伴わない意図的なリスクの過小評価(「安全神話」)、そして事故・汚染情報の隠蔽、電力会社の株主・出資者の金融的責任・監督官庁の行政責任のあいまい化など、重大な作為がまかり通っています。そして、過去の原発訴訟での危険性指摘を却下してきた裁判官たちの身分と生活が安泰であるように、人災をもたらした原発利権関係者の権限や相互依存構造は丸ごと温存されています。誰も罰せられず、その人々が権力・資金を持つ限り、原発震災の再発防止・対策における関係機関・個人の自浄作用は期待できません。後述のように広瀬・明石両氏は「東電最高幹部、山下教授ら張本人 32 名を刑事告発」しましたが、この国が法治国家であるならば、これは本来、行政府の職務ではないでしょうか。
1-4.望ましい政策の方向性
まず、現在進行している「被曝拡大」を食い止め、日本最大の公害問題となることが確実な放射能汚染に対処しなければなりません。福島・関東を中心に、広域の避難・除染と、食品・水等の汚染の監視と摂取制限による、被曝の最小化が必要です。(II)の事故対応については、東電・保安院から管理権限を第三者機関に移譲し、情報公開を進め、国内外の知識を反映させて事故対策を進める体制も必要でしょう。
責任ある施政と国民生活の安寧を求め、このような「人災」をもたらした第一の人災である(I)の「原発推進政策」を改め、環境負荷の逓減と社会的な安全を図ることが出来る、エネルギー供給体制と経済構造を求めます。その開始条件として、安全審査・認可制度そのものが論理上も実際上も破綻している以上、従来の制度下で建設・認可・運営されてきた既存の原発について、全て稼動を停止し、安全性及び将来計画について、制度そのものから再検討されねばなりません。
原子力発電は、そもそも、運転時・事故時の危険性、そして確実に残る放射性物質による将来世代への災禍の点などから、社会的に正当化できず、その上、環境影響を与えず利用可能エネルギーを取得する技術としては、そもそも生産性がないものです。原発震災後も聞かれる原発維持論ですが、原発震災で何が起こったか、そして起きつつあるのか、情報を整理して理解した上で、原発が今後も維持可能な発電方式であると考えているとしたら、科学者としての理性、社会を構成する人としての人間性を疑うほかありません。
この「原発震災関連情報」は、関連する情報を収集できるよう、エントロピー学会ML、Twitter 等で得られた情報をまとめました。過去の情報も一部そのまま掲載しております。リンク先の内容検証、許可等の個別対応はできていないものもあり、ご自身の判断で利用してください。情報リンク切れ、誤記訂正など、どうぞご指摘ください。
藤堂史明(新潟大学大学院現代社会文化研究科)
連絡先:E-mail: toudou (at) econ.niigata-u.ac.jp
エントロピー学会原発震災関連ウェブサイト (当情報のバックナンバーも):
エントロピー学会:原発事故コーナー
—————————–
目次
1.はじめに:原発震災の現況と望ましい政策の方向性
1-1.7 月の更新にあたり
1-2.原発震災の社会的な展開
1-3.人災に自浄作用なし。繰り返される「公害湮滅」の構造。ではどうするか?
1-4.望ましい政策の方向性
2. 東京電力福島第一原子力発電所事故の状況分析
2-1.事故炉、メルトダウンと放射能漏出の状態について
2-2.公開フォーラム「福島原発震災の真実」
2-3.地震列島の「原発震災」、その予測と政策対応の経緯
3. 福島を中心に日本広域で高レベル放射能汚染
3-1. 年間 20 ミリシーベルトへの基準引き上げによる被曝問題
3-2. 広域化する汚染と放射能ホットスポット、汚染食品
3-3.汚染牛をきっかけに食品の放射能汚染の実態解明を
3-4.低線量・内部被曝による健康影響評価
4. 原発震災と情報公開(独立メディアリスト)
4-1.インターネットメディアによる情報収集・分析
4-2.原発震災と政府・東電・旧マスコミの情報公開批判(再々掲)
5. 事故原発の動向と今後のエネルギー政策、国民生活
5-1.短期的な原発存続をバネに新エネ導入を図る事の本末転倒
5-2.新エネルギー・原発産業の今後
5-3.電力は足りないのか?‐予想通りの電力危機の演出‐
6. 原発震災による放射性物質拡散・汚染状況データ
6-1. <海外>
6-2. <国内>
7.エントロピー学会関連の記録
7-1.「原発の廃炉に向けて‐福島原発同時多発事故の原因・影響の真相を総合的に解明す
る」記録 (4/23,24):再掲
終わりに:原発震災、原発犯罪の系譜