第24回エントロピー学会シンポジウムは終了いたしました。
第24回エントロピー学会シンポジウム趣意書
エントロピー学会は、「物理学におけるエントロピーを用いて、生命および生命を含む系を論ずる」ことを目的として1983年に創立されました。創立以来、本学会では、自然科学や社会科学といった特定の専門分野を超えた自由な議論を、環境問題について行ってまいりました。
今年は、11月25日(土)と翌26日(日)の二日間にかけて、「エントロピー論の原点を探る ― 公害問題と環境問題―」をテーマに慶応大学日吉キャンパスにおいてシンポジウムを開催いたします。
さて、エントロピー学会創立の原点のひとつは、水俣病に代表される、激甚なる公害被害に対する反省でありました。ちなみに今年は、水俣病公式確認50年、そしてチェルノブイリ原発事故20年にあたります。
科学技術により生み出された公害は、政治、経済、行政の各領域においても食い止められることなく、御用学者の跋扈とともにむしろ被害を拡大させていきました。自然科学も社会科学も人間に敵対する存在でしかないのか、そういった危機感は、科学者だけでなく、多少とも科学(自然科学・社会科学含めて)に携わってきた市民(職業人)の多くがもったものと想像できます。しかし一方で、たとえば水俣病を例にとれば、その問題は、有機水銀中毒の問題だけに留まるものではなく、それは、食料増産(食糧難・飢餓からの解放)といった、それまで有意と思われていた技術から起きたことであると同時に、化学肥料漬けとなった農業の問題という新たな別の問題にも連続していたとも考えられます。つまり、公害問題には、その後の技術論的な問題、環境論的な問題への連続性がありました。
私たちは、水俣病をはじめとするさまざまな公害問題から多くを学んだはずなのに、原子力は依然野放し状態であり、ダイオキシン、環境ホルモンといった問題についても、多くのことが積み残されています。そして20年前に盛んに議論されたアスベスト問題が、より具体的な被害として、いままたクローズアップされてきました。これは、工場周辺住民に被害を及ぼしている公害問題であると同時に、労働災害という側面があります。このように公害問題は決して過去の問題ではなく、現在、そして未来の問題でもあります。加えて、いまや急速な経済発展を遂げているアジア諸国において、日本の公害の経験が生かされているとも思えません。それ故、公害問題こそは、環境問題を論ずることの原点である考えられます。
以上の観点から、本シンポジウムでは、過去の公害問題を現在の問題として捉えなおし、今後の環境問題の議論につなげていきたいと考える次第です。
第24回シンポジウム現地実行委員会(横浜セミナー事務局):田中 良